2015/09/18UPDATE
ウォーキングとランニングの違いは、両足とも地面に着いていない期間(空間期)の有無と、前進を重心の移動でするか、地面を蹴飛ばしてするかの違いによります。足の動きで言えば、ウォーキングは踵で着地し、足底全体を接地し、踏み替えして踵を離床し、前足部に体重を移します。原則、両足を地面から離す空間期は無いので、反対側の足は遊脚期に荷重足を追い越して前方に出し、荷重側の前足部が離床するまでに踵で着地します。前編で述べたように、踵着地時の反力のベクトルは上、後に向いており、歩行速度が速いほどベクトルは大きく歩幅が大きいほど後ろに行く成分が大きくなります。歩行速度は歩幅X歩数/時間となるので、同じ速度で歩くなら、歩幅を狭くした方が反力は小さく後方へのベクトル成分も小さくなり、踵の衝撃、膝への負担は小さくなります。もちろん、ゆっくり歩けば負担も少ないのですが、ウォーキングをする人は運動やダイエットを目的としているので、足への負担、体への負荷を軽減するよりは、より速く、より広い歩幅で歩こうとして、運動やダイエットの効果に比例してリスクが高まります。中にはウォーキングと競歩を取り違えて、より速く、より長く歩く事自体を目的とする人がいますが、目的が健康なのであれば、ウォーキングよりジョッキングやランニングの方が目的にかなっています。
ウォーキングのリスクは、着床時の踵と、踏み替えし後の前足部の荷重ですので、踵骨棘や広義のモルトン病の原因になるばかりでなく、膝への負担も無視できません。これらは前述したように、歩幅を広くするとリスクが増大するので、運動量を増したいのであれば、歩幅を広げるよりも歩行周期を速めた方が良いのです。しかし、ウォーキングは軽度の運動負荷に適していますから、日常生活の筋力維持以上の効果や心肺機能の増強効果を期待するのであれば、ジョッキングやランニングの方が適しています。 ウォーキングのリスクを軽減するためには、踵の衝撃、前足部の荷重を和らげ、対象的でスムーズな歩行周期を維持する事が必要です。その為には、クッション性の良い3cm程度のヒール、厚い柔らかめのロッカーボトム底の靴が良いと思います。靴の重量は、足をぶらぶらと振り子運動させた時、力が要らない程度の重さが良く、軽すぎても重すぎてもいけません。ヒールと靴底の硬さは、がつんと底突きするのは硬すぎますし、砂浜を歩く感じでは柔らかすぎます。 ランニングでは、同時に両足に荷重する事はありませんし、踵を着く事もありません。短距離走では、前進も重心の高さに維持も足で地面を蹴る事で行うので、前足部の荷重は強大です。遊脚側の前進も、振り子運動ではなく、筋力だけで行われるので、靴の質量は小さければ小さいほどよい事になります。脚力の地面への伝達のためには、靴底の摩擦力も重要でスパイクシューズも用いられます。足のリスクは、前足部の荷重、アキレス腱の張力、足底筋と足底腱膜の緊張に集中します。下腿三頭筋・アキレス腱・踵骨隆起・足底腱膜の一連の力の伝達機能は、下肢の強大な筋力を最終的に地面に伝達する重要な機能を果たしますが、曝されるリスクは大きくなります。健康のためのランニングでは短距離走とは異なり、ジョッキングのように、前進にも重心の高さに維持にも下肢筋力で地面を蹴るだけでなく、遊脚足を重心より前に着き、膝を曲げる事によって重心の前傾と脚力の両方を使うランニングに止めた方が良いようです。従って、ランニングの障害を防止するには、靴の重量を軽くするために、ヒールは薄くして良いのですが、前足部は踏み返しが容易で、ある程度のクッション性は維持した物の方が良いと思います。
一口にウォーキング、ジョッキング、ランニングと言っても、歩幅、歩行周期から足、筋肉の使い方まで千差万別ですし、散歩に近いウォーキングから100m競走、フルマラソンに近いランニングまで範囲も非常に広がります。その為、普通の人が競技用のシューズを安易に使えば、健康になるどころか、障害を起こしたり、病気になったりする事になります。ウォーキング、ジョッキング、ランニングまで、自分の体力、技術、目的に合った物を選び、それに適した靴選びが肝要でしょう。
日本靴医学会、日本足の外科学会 名誉会員
昭和45年:慶應義塾大学医学部卒業、整形外科医
平成11年:第13回日本靴医学会会長、第24回日本足の外科学会会長
平成11年:第20回国際足の外科学会副会長
平成20年まで:慶應義塾大学医学部総合医科学研究センター・整形外科 教授
平成23年まで:日本靴医学会 理事長、日本足の外科学会 理事
研究分野:足の外科、外反母趾
主な著書:外反母趾を防ぐ・治す(講談社)、足のクリニック(南江堂)
主なテレビ出演:今日の健康(NHK2002/7/8、2006/3/1)、世界一受けたい授業
(日本テレビ2007/8/25)など
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