2016/12/08 UPDATE
常時直立二足歩行は人間の人間たる所以です。 二足歩行するためには、アキレス腱のトルクを高める長大な踵骨体部と、足部を強固にして踏み返しを可能とする足の縦アーチが必要です。処女歩行するまでには一応の形態は整いますが、静的な「立つ」から、動的な「歩く」への発展には、骨や筋肉の強度だけでなく、複雑な協調運動を実現するための、神経系の発達が重要です。歩き始めた子供達は、一日中飽きもせず歩き回り、骨格や筋肉を強くするだけでなく、全身の動きをコントロールして、安定と不安定を使い分けて、直立二足歩行に習熟します。
太古の昔、人間は獲物が疲れ果てるまで長い時間追いかけ続け、自分より速く走る獣を捕らえる事が出来ました。人間の直立二足歩行は、速度のエネルギーと位置のエネルギーを交互に交換することにより、高いエネルギー効率を実現しているので、速くはありませんが長距離を歩き続けることが出来るのです。 多くの人が、人間は足で地面を蹴って、前に進んでいると誤解しています。通常の歩行では、前に出した足を着地する時には、地面を蹴るどころか、ヒール・ストライク時には地面に足を突っ張って、体を止めようとします。この時の床反力による後ろ向きベクトルの垂直成分が、消費された位置のエネルギーを回復し、高いエネルギー効率を得るのです。車輪と異なり二足歩行では移動時の重心の上下動は避けようがありませんが、この様にエネルギーのロスを抑えています。
歩行に際して重心は上下だけでなく、前後左右にも動きます。通常の歩行では、出た足と同側に骨盤が回旋するので、体幹はこれを打ち消す様に反対側に捻れ、これに従って反対側の腕が前に振り出されます。頭は、体幹の捻れの半分だけ反対に回旋し、前を見据えるように動きます。こうすることによって、水平面でのモーメントを打ち消し、体幹の動揺を防ぐのです。
歩行時には片足に荷重されるので、前額面で見れば重心は荷重足の上に位置せねばなりません。また、遊脚期の足を前方に振り抜くためには、機能的に荷重側の下肢が長くなくてはならないので、骨盤は殿筋で引き下げられ荷重側に傾きます。そのままであれば、体幹は荷重側に傾きすぎ、重心が荷重足の外側に言ってしまうので、腰椎は反対側に側屈し重心の位置を補正しようとします。しかし、それだけでは、頭は側屈し、一歩一歩、左右に頭を振りながら歩くことになるので、垂直になるよう頸椎が半分だけ反対側に側屈して補正します。
歩行の速度は、意識的に体幹を前傾させて、重心を前方に移動させる量によって決まります。傾きによって重力による水平ベクトルの大きさ即ち加速度がが決まり、歩幅によって加速時間が決まるので、両者によって速度が最大になるヒール・ストライク時の速度が決まります。従って、体を出来るだけ傾け、大股で歩けば速く歩けますが、遊脚を間に合うように前に進めるには筋力が必要なので、それ以上の速度で歩けば転びます。体の傾斜と遊脚の運ぶ距離と速度、これが最適で望むようにコントロールできなければ成りません。 いくらエネルギーが保存されると言っても、摩擦や抵抗で消費されるエネルギーがあるので、これを補充させするために重心を持ち上げてやらねば成りません。このために、通常は膝をロックし脚を突っ張って歩くのではなく、わずかに膝を屈曲しこれを大腿四頭筋で伸展させ上向きの力を発生させます。遊脚を振り抜くために骨盤を引き下げる大殿筋の力も重心を押し上げます。遊脚を振り抜ける高さも大切で、平らな道では数mmのクリアランスで振り抜いています。
普通に歩くと言うことが、どれだけ大変なことかが分かります。普通に歩く頃になると、アクティブに足の力を地面に伝える必要が出てくるので、靴底の硬さも必要になってきます。長距離を歩くこともあるでしょうし、凸凹道を歩く機会もあるでしょう。靴底がある程度硬く、特に左右の縁の張り出しと硬さが有り、低いヒールも必要になります。この様な靴が足と一体になって動かなければならないので、靴紐やストラップも重要になりますし、何よりもサイズが合っている事がより重要になります。
日本靴医学会、日本足の外科学会 名誉会員
昭和45年:慶應義塾大学医学部卒業、整形外科医
平成11年:第13回日本靴医学会会長、第24回日本足の外科学会会長
平成11年:第20回国際足の外科学会副会長
平成20年まで:慶應義塾大学医学部総合医科学研究センター・整形外科 教授
平成23年まで:日本靴医学会 理事長、日本足の外科学会 理事
研究分野:足の外科、外反母趾
主な著書:外反母趾を防ぐ・治す(講談社)、足のクリニック(南江堂)
主なテレビ出演:今日の健康(NHK2002/7/8、2006/3/1)、世界一受けたい授業
(日本テレビ2007/8/25)など
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