2014/06/25 UPDATE
胼胝とか鶏眼、肉刺と書くと如何にも取っ付きにくいですが、タコや魚の目、マメであれば蛸や魚、豆と同じで親しみやすいでしょう。
足の外来で「足の裏にたこができて痛いのでとって下さい」とよく頼まれます。「たこを取っても痛い」「たこを取ってもらったのに、又、直ぐ出来た」という不満もよく聞きます。これは、「胼胝」が「痛み」の原因だと誤解されているためです。胼胝の部位に痛みがあるので原因だと思いがちですが、胼胝も痛みも皮膚に強い力が加わるのを原因とした結果同士であり、両者に因果関係はありません。ですから、同じ結果である胼胝を何回取っても痛みは無くなりませんし、原因である強い力を取り除かなければ、直ぐに再発します。
これに対して、鶏眼は胼胝と同様、圧力によって生じた結果ですが、同時に痛みの原因になります。痛みの直接の原因は圧力なのですが、鶏眼はこの圧力を何倍にも増幅するのです。鶏眼では、増殖した硬い皮膚の角質の芯(corn)が先端を真皮に向けて楔状に食い込んでいます。硬い角質は力をまともに伝えるので、底面で受けた力は先端では何倍にもなり、普通は痛まない程度の弱い圧力でも、強い痛みを起こします。痛みは全く異なる胼胝と鶏眼ですが、病理学的には同じ皮膚の角質の増殖で、その一部分だけを顕微鏡で覗いても区別が付きません。しかし、断面全体を眺めると台地状に盛り上がった胼胝と、噴火口で固まった溶岩のように食い込んだ鶏眼は全く別物です。鶏眼は一度できてしまうと、日常の圧力でも増殖を続けますので、まずは皮膚科で取ってもらい、その後、圧力の軽減に努めることが肝心です。小さく見えても表面から基底部まで硬い角質なので、取ったら骨が見えてしまう事もあります。
これに対して、肉刺(まめ)や靴擦れは、摩擦による剪断応力で表皮と真皮の間が剥離し、その間に滲出液が溜った水疱です。表皮が破れて真皮が露出すると、神経末端が直接刺激されて痛いばかりでなく、炎症を起こし化膿しやすくなります。勿論、きつく過ぎる靴は良くありませんが、緩すぎても足が前後に滑り、摩擦を起こして豆を作ることが少なくありません。爪下血腫(黒爪)は、靴の甲革で爪が圧迫されて爪床から出血し、爪との間に血液が貯留した状態です。血液の逃げ場がないので急速に内圧が高まり、激しい痛みを起こしますが、爪に小孔を開けて排液して圧を下げてやると痛みは嘘のようになくなります。きつすぎる靴で起こりますが、下り坂で足が前に滑り爪が押されて起こるので、大きすぎる靴も良くありません。サイズのあった靴をしっかり靴紐を締めて履いてください。
足の皮膚の疾患として最も有名なのは水虫でしょう。水虫は真菌(カビ)の一種である白癬菌の感染症です。白癬菌はケラチンを栄養源とするので、ケラチンに富む表皮角質、爪、毛根に生息します。皮膚の水虫は水疱や糜燗を作り痒いので気づきますが、爪の水虫は痒くないので気づかれません。白癬菌は角質の下に隠れているので、塗り薬で治ったように見えても生き残っていて再発しやすいので、症状が無くなっても3ヶ月は気長に治療を続けてください。
最近、糖尿病による足の障害が話題になっています。流石に、糖尿病は血糖が上がり、尿に糖が出るだけの病気と考える人は少なくなってきました。しかし、糖尿病により足が壊死になったり、時には切断になったりする事は余り知られていません。糖尿病は神経を冒し足の知覚を低下させ、動脈硬化を起こして足の血流を低下させ、白血球の働きを阻害して感染しやすくします。これらは、靴擦れなどの些細な傷を悪化させ、潰瘍から感染を生じ、壊死や蜂窩織炎、骨髄炎を起こして、切断に至る事があります。皮膚は外界から身を護る最大の防御壁です。靴はその皮膚を助けて足を護る大切な道具ですが、選び方、使い方を誤ると逆に足に牙をむいて襲いかかってきます。足も靴も日頃は何の気無しに使っていますが、健康な生活を最後まで楽しめるよう、足に合った靴を目的に合わせて履き分けてください。
日本靴医学会、日本足の外科学会 名誉会員
昭和45年:慶應義塾大学医学部卒業、整形外科医
平成11年:第13回日本靴医学会会長、第24回日本足の外科学会会長
平成11年:第20回国際足の外科学会副会長
平成20年まで:慶應義塾大学医学部総合医科学研究センター・整形外科 教授
平成23年まで:日本靴医学会 理事長、日本足の外科学会 理事
研究分野:足の外科、外反母趾
主な著書:外反母趾を防ぐ・治す(講談社)、足のクリニック(南江堂)
主なテレビ出演:今日の健康(NHK2002/7/8、2006/3/1)、世界一受けたい授業
(日本テレビ2007/8/25)など
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