2015/03/20 UPDATE
乳幼児の足の成長は、単に大きくなるだけでなく、生誕時には距骨と踵骨ぐらいしか骨化していなかった足根骨が次々と骨化し、長管骨の骨端核も出現します。 誕生から幼稚園の頃までに、魚から両生類、は虫類、哺乳動物、人間という、動物が3億年かけて経験した変化を復習します。ハイハイから立っち、一歩一歩のよちよち歩きから始まり、切れ目のないスムーズな体重移動を使った大人の効率の良い歩行を就学前に学びます。 小学生までに、体幹と四肢のバランスは大人に近づき、下肢のアライメントもO脚からX脚を経てほぼ直線になり、前足部が伸びて後足部との割合も成人と同様になります。エネルギー消費の少ない人間独自の歩行を可能にする為には、踵を引き上げる下腿三頭筋、足の縦アーチの剛性を高め中足骨骨頭を支点とした踵の挙上を可能とする足底筋や足外屈筋群、体重を支え重心を引き上げる股関節、膝関節、脊柱周りの筋群の発育、強化が必要です。勿論、筋力の増強に応じた骨、関節、筋力をコントロールする神経系の発達も忘れてはなりません。
個人差はありますが、小学生になると歩行の質も量も一段の発達を遂げ、歩行以上の運動能力を発達させて行きます。まず、走ることを学びます。幼児も直ぐに速く歩くことを覚えますが、歩くのと走るのは根本的に異なります。
速く歩く場合には、体は重心をより傾けて速度を増し、足をその倍の速度で振り出さなければなりません。効率優先の歩行では、足の振り出しは振り子運動によって行われ、最も効率の良い速度は個人で一定です。もし、より速く降り出そうとすれば、筋肉で加速するか重心をより高い位置に引き上げならず、効率は落ちます。また、足は立脚期に止めなければならないので、スタート・ストップ、加速・減速を繰り返します。もし速度を2倍にする為に歩数で2倍にすれば加速度は4倍になりますが、歩幅で2倍にすれば加速度は2倍で済みますので、ごく単純に考えれば歩幅を広げた方が効率的です。でも、歩幅にも限界があるので、大股で歩けば歩くほど、いくらでも速くなると言うわけにも行きません。そこで、人間は走ることにしたのです。走ることを定義すれば、両足を同時に宙に浮かす、飛ぶと言うことです。その為には、歩行と違って体を前に傾け重心を前方に加速するだけでなく、能動的に上に向かって加速しなければなりません。両足とも地面についていない間の姿勢制御は慣性力だけに寄りますから、片側でも地面に足が着いている時に比べてコントロールは格段に困難です。足は、体重を支えるだけでなく地面を蹴って能動的に加速しなければなりません。この加速の大きさと方向(上方と前方のベクトル成分)により、スピードと滞空時間(歩幅)が決まります。歩行と同じように歩幅を広げた方が要する加速度は減りますが、地面を蹴って加速できる回数は減ります。また、100mのダッシュと41.125㎞のマラソンでは、走ると言っても全くの別物と言って良いでしょう。片足が地面に着いているか、踵から接地するか、加速は重心の移動だけか地面に力を加えるかいろいろな因子が絡み合って、歩くから走るへと変化します。散歩から始まって、スピードの究極、100m競争、距離の究極マラソンへと小学生は進んでいきます。これに加えて、ジャンプ、ターン、サイドステップと前ばかりでなく、上へ、横へ、後へと移動しつつ姿勢を制御することも身につけ始めます。これらを実現するには、強い筋力ばかりでなく、力を外界に伝え、その反力に耐える強い骨、関節、靱帯、腱が要求され、これらを順序良くコントロールし姿勢を維持する、中枢神経と末梢神経、感覚神経と運動神経、反射機能が必要になります。また、これらを実行する意志の力も重要です。
一口で言えば、動くという意志により運動器を動かし、結果を感覚器で計測して意識、中枢、末梢神経、運動器の全てのレベルにフィードバックして制御するという機構を発達させるのが小学生の時代です。 この時代の成長、発育に関して、これらの器官の発育が必ずしも同じでない、必要十分でないことが問題です。鍛えれば鍛えるほど急速に強くなるのは筋力です。逆に、鍛えても直ぐには強くならず、強くなるには時間がかかるのが骨や関節、腱です。これを制御する神経が発達するには、粗大運動には時間が余りかからず、巧緻運動には幾何級数的に時間がかかります。
もう一方で大切な事は、刺激の強さと体の反応です。骨折でギプスを巻くと骨は弱くなります。リハビリで力を掛けて骨を刺激すれば骨は段々回復します。そして、刺激すれば刺激するほど強くなっていきますが、徐々に刺激に対する反応は小さくなって行きます。最後にある刺激の閾値を超えると骨は急速に萎縮し強度を低下させ、ついには折れてしまいます。これを疲労骨折と言いますが、この現象は骨だけでなく他の器官にも多かれ少なかれ起こります。 器官による発育速度の違いと、過剰刺激による器官の萎縮、強度の低下が、小学生の足の障害、病気の原因になります。「走るの大好き」で走っていたら、膝が痛くなり、医者に診せたらオスグット・シュラッター氏病と言われた。踵が痛くなり、シェーバー病、足が痛くなり、ケーラー病、フライバーグ病、有痛性外脛骨、ジョーンズ骨折、行軍骨折と骨の発達が筋力や運動能力に追いつかない病気が頻発します。 体をコントロールする神経が運動能力に追いついていないとしか言いようのない怪我も多くなります。これらを調節し、発達に即した刺激を与え、過剰な負荷を抑制するのがこの時代の教育、足育になります。
この時忘れてならないのが靴です。幼児の靴は人間としての歩行を覚えることが目的ですから、足に負担を与えず、足本来の機能を守ることが一番でした。小学生になると、靴は走る飛ぶと言う高度の運動を実現する用具、足と大地のインターフェースとして外界に力を伝え、外から情報を受け取る役割を持ちます。これに優れていると言うことは良い靴の条件ですが、スポーツ用具としてより強い力を大地に伝える代わりに、反力としてより強い力を足に伝えれば、時として過剰刺激になったり、反力をコントロールできずに骨折を起したりすることがあります。小学生には、体に余裕が出来た大人にだけ許される、スポーツ用具として能力以上に走れたり飛べたりするような靴を与えてはいけません。必要以上に制動力のあるサッカーやバスケット靴、スパイクシューズなどは避け、滑って過度な力は地面に伝えず、反力も押さえられる程度の靴にとどめておきましょう。小学生の靴は発育を促す事に重点を置き、速く長く歩ける道具としての靴はもう少し待ってください。
日本靴医学会、日本足の外科学会 名誉会員
昭和45年:慶應義塾大学医学部卒業、整形外科医
平成11年:第13回日本靴医学会会長、第24回日本足の外科学会会長
平成11年:第20回国際足の外科学会副会長
平成20年まで:慶應義塾大学医学部総合医科学研究センター・整形外科 教授
平成23年まで:日本靴医学会 理事長、日本足の外科学会 理事
研究分野:足の外科、外反母趾
主な著書:外反母趾を防ぐ・治す(講談社)、足のクリニック(南江堂)
主なテレビ出演:今日の健康(NHK2002/7/8、2006/3/1)、世界一受けたい授業
(日本テレビ2007/8/25)など
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