足は第二の心臓、ではどうしたら? 第二の心臓と言っても、足と脚の両方に浮腫んだ足から血液を心臓に戻す機能があります。今回は、これを上手く助けてすっきりした足と脚を取り戻しましょう。 浮腫(むく)んだ足と言えば、静脈瘤やリンパ浮腫の医療用の弾性ストッキングを想い出します。「医療用の」と言われると、薬からストッキングまで一般に市販されている物より効きそうな感じがします。確かに実際に市販されている弾性ストッキングは10~15mmHgの圧力を掛けますから、静的圧力として静脈瘤やリンパ浮腫に効果があります。しかし、血液が戻るのに必要な動的圧力は、筋肉に依って生み出されるので、弾性ストッキングをはいたからと言って血液の戻りが良くなる訳ではありません。それどころか、筋肉の加圧トレーニングではありませんが、体を常時圧迫し運動を負荷することは、血液循環を妨げ、組織に過大な酸素や栄養素の不足を強いることになりかねません。もちろん、病気の治療や、選手の強化訓練のためなら良いでしょうが、普通の生活をする人にとっては、血液の循環を助けて、浮腫を根本から絶つことが望ましいのです。
では、頭の中で一つの実験をしてみましょう。子供の頃遊んだ風船を想い出して、力一杯、膨らませてみて下さい。最初は簡単に息を吹き込めますが、少しずつ抵抗が掛かるようになり、最後には抵抗が大すぎて吹き込めなくなります。この抵抗が圧力なのですが、今度は少し膨らんだ風船に弾性包帯を巻いてみて下さい。前と同じに徐々に圧力が高まりますが、その程度は風船の大きさに比べて巻かない時よりも強くなります。今度は普通の包帯を巻いてみましょう。包帯に緩みがある間はあまり圧は高まりませんが、伸びないので包帯が伸びきると一気に圧が高まり、息を吹き込めなくなります。これが、伸びる弾性包帯と伸びない普通の包帯の違いです。 もう一つ、茶筒か海苔の缶の中で風船を膨らませることを考えましょう。普通に膨らませれば徐々に圧が高まる風船が、缶の中で一杯になったとたんに一気に圧が高まり、一息も吹き込めなくなるのが、容易に想像できるでしょう。 では、伸縮性があるのと無いのと、どちらが良いのでしょうか。弾性ストッキングでは圧が掛かっているので、筋肉が弛緩しても静脈の管腔は広がらず末梢からの血液の流入は限られます。一方、普通の包帯のような伸縮性のない場合では、筋肉が弛緩すれば圧は掛からないので静脈の管腔は広がり、末梢から血液が流入します。筋肉が緊張すると、伸縮性のある場合には、徐々に圧が高まりますが、伸縮性がなければ、包帯が緊張した時点から一気に圧が高まり、維持されます。血液の排出は圧と時間の積で決まるので、一気に圧が高まり、長時間維持される非伸縮性の方が、血液の環流には効率的です。 これが、何時も組織内圧を高めて、静的圧力の亢進による、血管腔からの組織内への水分の移行を防ぎ、組織から血管腔への水分の潅流を図る、医療用の弾性ストッキングの働きと、血管腔内の血液の心臓への還流を助ける第二の心臓の働きの違いです。ですから、第二の心臓を助けるには、非伸縮性の素材で下腿をピッタリと覆う事が必要です。 これには、ピッタリしたロング・ブーツが最適です。素材は伸びにくい革で、ピッタリさせるためには、後ろ開きのチャックにしましょう。今年の冬は、ロング・ブーツで闊歩して、足の浮腫を取って下さい。男性はどうしたら良いか、ですか。ゲートルを巻いて歩いてみますか?
では足の方はどうしましょうか? 足は筋肉の働きによる還流も大切ですが、体重負荷による足裏の圧迫が、足の体積を変える働きも重要です。足の体積を変化させるには、足裏全体を均等に圧迫してやることが必要です。起立時には、体重は踵と前足部に掛かり、土踏まずには文字通り体重は掛かりません。ですから、体重で足裏を圧迫しても踵と前足部の容積は減っても土踏まずに逃げてしまいます。これを防止するには足裏に良く馴染むように変形し圧を分散させるインソールが必要です。インソールは土踏まずにも圧を掛けて圧を平均化し、負荷の強い局所の圧を低減し、疼痛を除去するために圧を分散させますが、足からの血液還流にも役立ちます。本来、足は縦横三次元的なアーチ構造の3点接地で大地の上を歩行できるように作られていますが、300万年掛かって進化した足も、ここ300年の硬い舗装道路の発達にはかないません。アスファルト・ジャングルの中で生き延びる為には、足へのショックを和らげるインソールも考えざるを得ません。ついでに、足からの血液還流を助ける第二の心臓をサポートするのも悪くありません。 今年の冬は、女性はロング・ブーツ、男性はショック・アブソーバー付きのビジネス・シューズで、歩行不足から来る足の浮腫に打ち勝ちませんか?
日本靴医学会、日本足の外科学会 名誉会員
昭和45年:慶應義塾大学医学部卒業、整形外科医
平成11年:第13回日本靴医学会会長、第24回日本足の外科学会会長
平成11年:第20回国際足の外科学会副会長
平成20年まで:慶應義塾大学医学部総合医科学研究センター・整形外科 教授
平成23年まで:日本靴医学会 理事長、日本足の外科学会 理事
研究分野:足の外科、外反母趾
主な著書:外反母趾を防ぐ・治す(講談社)、足のクリニック(南江堂)
主なテレビ出演:今日の健康(NHK2002/7/8、2006/3/1)、世界一受けたい授業
(日本テレビ2007/8/25)など