寝返りから「ハイハイ」、「立っち」に「あんよ」と始まった直立二足歩行は、歩くから走るまで基礎的な能力は入学前には一応の完成を見ます。乳幼児でO脚であった下肢も、かえってX脚の傾向となり、背や手足も伸びて大人の体格に近づいていきます。それに従って歩行形態も効率的になり、手を振ってバランスをとり、体を回旋してカウンター・フォースとし、骨盤を挙上して脚を振り抜き、膝を伸展しロックして荷重を行い、重心の左右の振れを体幹を屈曲して打ち消すなど、より対象的でスムーズな安定した歩行を完成して行きます。走るのも、巧みに前傾姿勢と膝の屈伸を調節して、小走りから、全力疾走までこなすようにます。
最近は保育園や幼稚園など、早期から集団生活を始めるようになりましたが、小学校に入ると正式に社会人としての訓練が始まります。同じ直立二足歩行でも、園庭でのお遊びや親に連れられての登下園と、体育の授業での隊列を組んでの行進や小学校の登下校とは全く異なります。これは、社会や組織における個人として、周囲との関係を調節しつつ、目的行動を遂行する事です。これを直立二足歩行と結びつけて考えてみましょう。 歩行を始める当初から、目的を目指して行動する訳ですが、最初の努力は重力に抗して倒れず前進する事に費やされます。それが発展して、入学前には凸凹道から坂道まで、周囲の環境に応じて自由に行動できるようになります。しかし、目的に従って、周囲の状況を把握し、自らその変化を予測して対処していくことは出来ません。言い換えれば、それまでに収得してきた直立二足歩行の高度の技術を、目的とか安全、規則などより抽象的な環境に即して応用する能力です。 親に手を引かれての幼稚園の登園と、小学校の登校を考えてみましょう。原則、通園路、通学路に坂道、凸凹道など物理的な環境の違いはありませんから、これらの通常変化しない環境に対応する為の歩行能力に差はありません。しかし、途中に工事中の箇所があり、警備員の誘導に従って、工事中の迂回路を通らなければならない状態を考えてみましょう。親に手を引かれていれば、状況の把握、必要な行動の予測と遂行の判断、結果の評価と次の行動に対する反映(フィード・バック)など、全て親任せで済みますし、仮に予想外の事態が生じた時の補助も万全です。ですから、子供はしっかりと足下を見つめて、親の手をしっかり握り、歩行することに集中すれば良いのです。
しかし、小学生の登校では、これらの一連の行動を子供だけで行わなければならず、予想外の事態においての援助も期待できません。勿論、これらの違いの大きな要素は、直立二足歩行の能力よりも、より高次元の大脳機能によるものですが、「歩きスマホ」を考えてみれば、大人でも考え事をしながら歩行するのは危険なのですから、小学生には困難なことが分かります。ですから、園庭で好き勝手に歩き回るのがどんなに上手になっていても、時間内に、決められた場所に、人に迷惑を掛けず、友達に合わせて歩いて行くのは別のレベルの能力です。筋力にも運動神経にも十分な余裕が必要ですし、それを大地にしっかりと伝え外界から足を護る靴が必要になります。とっさに危険を避けるために急停止したり急に方向転換するためには、靴底の強い制動能力、それを足に伝える靴の剛性、足を保持する適合性が必要です。より早くより遠くにと言う歩行能力から、周辺の状況に合わせ危険を回避するというより複雑な歩行能力へ向上していきます。
日本靴医学会、日本足の外科学会 名誉会員
昭和45年:慶應義塾大学医学部卒業、整形外科医
平成11年:第13回日本靴医学会会長、第24回日本足の外科学会会長
平成11年:第20回国際足の外科学会副会長
平成20年まで:慶應義塾大学医学部総合医科学研究センター・整形外科 教授
平成23年まで:日本靴医学会 理事長、日本足の外科学会 理事
研究分野:足の外科、外反母趾
主な著書:外反母趾を防ぐ・治す(講談社)、足のクリニック(南江堂)
主なテレビ出演:今日の健康(NHK2002/7/8、2006/3/1)、世界一受けたい授業
(日本テレビ2007/8/25)など
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