昔は、冬の足の病気の代表だった、皹(ひび)、皸(あかぎれ)、霜焼け(しもやけ)と言っても、今の人達にとってなったことも見たこともなく、死語と言っても良いでしょう。これは、子供達の栄養状態の改善、暖房の普及のお陰ですが、靴が良くなって寒い中でも足が濡れて冷たくなる事など無くなったせいでもあります。とは言っても、末梢の血行障害による物だろうとしか原因がはっきりしない面もあり、体質によってはかなり良い環境の中でも発症する人はいるので、気温が5度以下、気温差が10度以上になる季節に足指が赤く腫れて痒くなるようなら、霜焼け(凍瘡 とうそう)を疑ってください。手足の乾布マッサージ、お風呂でのマッサージ、靴下や靴での防寒で予防も治療もできますが、1ヶ月以上続けても治らないようであれば、皮膚科を受診してみましょう。昔の子供のように、下駄やズック靴で足を濡らすことはないでしょうが、防水、保温に優れた靴を選び、靴下をこまめに替えてやって下さい。
足の病気というわけではありませんが、冬に多いのはお年寄りの転倒による骨折です。特に雪の日の整形外科外来はお年寄りの骨折で大混雑です。たかが骨折と思われるかもしれませんが、大腿骨頚部骨折の5年後の生存率は46%と半数以上が死んでしまう、胃癌と同じくらい怖い骨折もあります。 冬は滑って転ぶだけでなく、寒さで着ぶくれて動きが鈍くなり、つま先を引っかけたり、踏み違えて足を捻ったりして転びます。ですから、冬の靴には滑らないように靴底の防滑性、足先を引っかけないトゥ・スプリング、足を捻らないように安定したヒールが必要です。
靴が滑るのは、靴底と床の間に薄い膜ができ、摩擦が減るためです。北国用の靴底には昔のスタッド(スパイク)タイアのように床に食い込んで滑りを止める工夫をした物もありますが、一般にはスタッドレスタイヤの様に、ゴムの材質を変えブロックデザインを工夫して水の幕を切り排出して滑りを防止しています。しかし、ただ滑らなければ良いと言う訳ではありません。摩擦には静止摩擦と動摩擦と言って、止まっている時と動いているときの摩擦がありますが、これらが極端に違うと急に滑り始めたら急停止したりします。スリップやつまずきの原因になるので、滑るのも止まるのも徐々にが良く、急発進、急停止はいけません。
滑りにくい靴に越したことはありませんが、多くの患者さんが不用意に撒かれた水が氷った場所で転倒していますので、床や地面に注意して、滑りやすい場所では小股で足全体をフラットに着くように、歩き方にも注意しましょう。 冬は寒さと着ぶくれで活動が鈍くなっているので、つま先を引っかけたり、踏み違えて転ぶ人も増えます。最近のウォーキング・シューズはロッカーボトムやつま先の上がったトゥ・スプリングの靴があるので、つま先を引っかけやすい人には良い選択です。足首を捻りやすい人には、フレアーと言ってヒールが末広がりの靴やラテラール(外側)・ウェッジと言って、ヒールの外側が少し高めの靴もお勧めです。人間は足関節の外踝が長いので、足の裏が内側を向くような内返し捻挫を起こしやすいので、このようなヒールは捻挫を予防します。 転びにくい靴を手に入れて、冬になっても寒さを跳ね返し、戸外でウォーキングを楽しんでください。
日本靴医学会、日本足の外科学会 名誉会員
昭和45年:慶應義塾大学医学部卒業、整形外科医
平成11年:第13回日本靴医学会会長、第24回日本足の外科学会会長
平成11年:第20回国際足の外科学会副会長
平成20年まで:慶應義塾大学医学部総合医科学研究センター・整形外科 教授
平成23年まで:日本靴医学会 理事長、日本足の外科学会 理事
研究分野:足の外科、外反母趾
主な著書:外反母趾を防ぐ・治す(講談社)、足のクリニック(南江堂)
主なテレビ出演:今日の健康(NHK2002/7/8、2006/3/1)、世界一受けたい授業
(日本テレビ2007/8/25)など