扁平足は昔から有名でしたが、開張足が一般に知られるようになったのは最近で、ハイアーチ(凹足)は専門用語の域を出ません。また、医学用語と異なった意味で使われる事が多いので、混乱も生じています。
濡れた足あとを見て、扁平足だ、ベタ足だと嘆く人が多い様です。昔から、扁平足は疲れやすい、痛む、歩く、走るが苦手から始まって、腰痛、肩凝りの原因、極めつけは「地面からの衝撃が頭に直接響くので、知能の発育にも悪影響がある」とまで悪口を言われています。 しかし、医学的には扁平足は舟状骨の高さ、即ち縦アーチが病的に低い変形で、足あとと扁平足は関係ありません。それどころか、足底筋が発達した力士やスポーツ選手の足あとは土踏まずがないし、健康な赤ちゃんにも土踏まずがありません。その上、医学的な扁平足でも症状のない無症候性扁平足が大半です。ですから、垂直距骨など極希な先天奇形以外の、若年者、青年期の扁平足は無害と言い切っても間違えありません。もちろん、扁平足が知能や体力の発達に悪いと言う医学的根拠はありません。
しかし、中・高年になって起こる扁平足は、縦アーチの低下、足の三次元構造の破綻で、老化や病気の徴候ですから、話は別です。後脛骨筋腱機能不全(PTTD : Posterior Tibial Tendon Dysfunction)と聞き慣れない病気や外反母趾や慢性関節リュウマチから単純な老化まで色々あり、大切な歩行を障害し生活の質を低下させるので、扁平という足の形だけに捕らわれずに、適切な診断、治療が大切です。
開張足は、中足骨が末梢に向かって開く変形です。生まれつき前足部の広くても横アーチは正常な人は沢山います。スマートでない、ファッショナブルな靴が履きにくいと言う理由で嫌われますが、医学的には心配はありません。しかし、扁平足同様、中・高年になって新たに起こった開張足は、横アーチの低下、足の三次元構造の破綻で、老化や他の疾患の徴候であすから、適切な診断、治療が大切です。
ハイアーチ(凹足)は、扁平足の逆で、縦アーチの病的に高い状態です。勿論、希には先天奇形や疾患もありますが、一般には甲高と言われ、市販靴が探しにくい程度の凹足で、病気とは言えないものがほとんどです。しかし、ハイアーチだと踵や前足部に荷重が集中しやすく、柔性が不足することもあるので、踵や中足骨骨頭部の痛みを生じやすい傾向はあります。
これらの足の変形に共通するのは、足の三次元的構造の障害です。足は踵、母趾球、小趾球の上に立つ三角テントの構造をしています。頂点は舟状骨で、これをキーストーン(要石)とした縦横のアーチ構造を形成します。この縦アーチの異常が扁平足、ハイアーチ、横アーチの異常が開張足です。足のアーチは、クッション性、踏み返し、剛性に役立つと言われ、これを維持することは重要です。
これを靴の面から見ると、縦アーチはアーチサポート、横アーチは中足骨パッドが対応します。最近は、市販の靴にもアーチサポートや中足骨パッドを組み込んだ物が見受けられます。しかし、これらは本来、足底挿板(インソール)と言って足の装具療法のための物で、変形の矯正を目的とした物です。従って、薬と同じですから、診断を間違えたり、部位や形状、高さ、硬さを誤ったりすれば、副作用を起こします。ですから、効果のあるアーチサポートや中足骨パッドを使う場合には、厳重な注意が必要です。
ですから、市販の靴に使う場合には、矯正と言うよりも老化による変形の進行の抑制という程度に、効果を抑えた物にします。これは、医師の処方する治療薬と市中で買えるサップリメントの違いと思ってください。と言っても、効果があれば副作用は必ずありますから、専門家が指導し、徐々に効果を高めていくという手法で安全性が確認された、歴史のある靴を選ぶのがよいでしょう。しかし、市販の靴には危険なほど効く靴は売られていませんから、履いてみて、歩いてみて気持ちの良い、無理のない靴を選べば安全です。アーチサポートや中足骨パッドで、老化による足の三次元構造の破綻を抑えて、楽しい老後に備えましょう。ただし、「良薬、口に苦し」は、靴選びには当てはまりません。
日本靴医学会、日本足の外科学会 名誉会員
昭和45年:慶應義塾大学医学部卒業、整形外科医
平成11年:第13回日本靴医学会会長、第24回日本足の外科学会会長
平成11年:第20回国際足の外科学会副会長
平成20年まで:慶應義塾大学医学部総合医科学研究センター・整形外科 教授
平成23年まで:日本靴医学会 理事長、日本足の外科学会 理事
研究分野:足の外科、外反母趾
主な著書:外反母趾を防ぐ・治す(講談社)、足のクリニック(南江堂)
主なテレビ出演:今日の健康(NHK2002/7/8、2006/3/1)、世界一受けたい授業
(日本テレビ2007/8/25)など