赤ちゃんの扁平足を心配して受診するお母さんがいます。でも、歩き始める前の赤ちゃんの足の裏はふっくらしていて、土踏まずが目立ちません。内転足、内反足など治療が必要な先天的な障害は、乳幼児検診で直ぐに見つかるので心配はありません。 子供が歩き始めると「がに股(O脚)」が心配になります。でも、2,3歳まではO脚が普通ですし、オムツをしていれば皆、がに股です。他の子に比べて歩き方が下手なのも気になります。でも、オムツが取れるまでは歩くのも若葉マーク、無防備に転んで何時も頭をぶつけるのでなければ、転ぶのも練習です。4,5歳になって急に身長が伸び、赤ちゃんの脚から子供の脚になってくると、O脚気味からX脚気味へ変わります。その頃になっても上手く歩けなかったり、不用意に転倒したりするなら整形外科を受診して下さい。
最近、よく訊かれるのは、「浮き趾」です。立ったり歩いたりする時、趾が浮いていて地面に着かない状態で、治療をしないと上手く歩けない、走れないと言われて飛んできます。フットプリントで、外側趾が写らないと「浮き趾」と言う病気だと診断されてしまうようです。でも、全く心配ありません。医学的には、趾が背屈拘縮や伸筋・屈筋の病的な異常で、必要があっても、着きたくても着けない状況だけをfloating toe(浮き趾)と言います。ちなみに、「浮き趾」と言う訳語は、まだ正式な病名ではなく、医学の用語集には載っていません。「浮き趾」と言われた子供の大半は、両足で真っ直ぐ立って測っていますので、外側趾で体重を支える必要がなかったから写らなかっただけです。外側の趾が活躍するのは踏み返しする直前だけですから、趾で体重を支えようとした時に、趾が床に着けば全く心配入りません。無責任な情報に脅されて、無駄な治療で子供をいじめないでください。
小学校に入る頃から、踵を痛がる子が増えてきます。X線写真を撮ると踵の骨の後に分離した影(骨端核)が写り、セーバー病とか骨端症と診断されることがあります。昔は真剣に心配して、体育を休ませた事もありましたが、現在は発育途上に見られる無害のX線所見と考えられています。この頃は、筋力と運動量の増加に骨の成長が追いつかず、痛む(成長痛)ことがあるようです。 同様に、この頃、足の甲を痛がりX線写真を撮ると、舟状骨という足の中央内側の小さな骨(足根骨)が、潰れて白く写るケーラー病があります。これも、昔は随分心配してギプスを巻いたり、松葉杖をつかせたりしましたが、ほって置いても数年で自然に治癒し、後遺症も残さない事が分かってきました。
子供の足にとって病気も心配ですが、成長も大切です。歩き始めに12cm程度の足が小学校を卒業する頃には24cm近くになるのですから倍以上になります。成長速度は年齢に依って変わりますが、平均して毎年1cm(2サイズ)以上大きくなります。ですから、サイズ(長さ)だけでも6ヶ月毎、出来れば3ヶ月毎にチェックしてください。不思議なことに大人のサイズが0.5cm毎なのに、子供のサイズは1cm毎と言う奇妙な商習慣があります。最近は、幼児と小学校高学年の子供用にハーフサイズ(0.5cm毎)が作られるようになり喜んでいますが、小学校低学年用は余り見かけ無いのが残念です。背が160cmの大人に0.5cm毎の靴があるなら、80cmの子供には0.25cm毎のサイズがあっても良いわけですから、1cm刻みと言うことは4倍の荒さのサイズと言えます。
しかし、簡単に言って、大人は23cmから27.5cmまで10サイズに1億2千万人以上の人口でサイズ毎1,200万人がいます。でも、子供は8cmから24cmまで34サイズに1,400万人ですから、サイズ当たりの需要は大人の1/30になります。これでは在庫に敏感な靴メーカーや販売店がサイズを細かくしないはずです。しかし、足の発育を障害しないためには、合ったサイズの靴を履かせるのが最も大切です。是非とも、0.5cm刻みのサイズ(ハーフサイズ)の靴を選び、6ヶ月に一度は1サイズずつ大きな靴に買え変えてあげて下さい。そうすれば、豊富なサイズの靴が作られ、売られるようになり、子供達が合った靴を買えるようになるのです。
日本靴医学会、日本足の外科学会 名誉会員
昭和45年:慶應義塾大学医学部卒業、整形外科医
平成11年:第13回日本靴医学会会長、第24回日本足の外科学会会長
平成11年:第20回国際足の外科学会副会長
平成20年まで:慶應義塾大学医学部総合医科学研究センター・整形外科 教授
平成23年まで:日本靴医学会 理事長、日本足の外科学会 理事
研究分野:足の外科、外反母趾
主な著書:外反母趾を防ぐ・治す(講談社)、足のクリニック(南江堂)
主なテレビ出演:今日の健康(NHK2002/7/8、2006/3/1)、世界一受けたい授業
(日本テレビ2007/8/25)など